なぜNayutaをつくったのか
はじめに
Nayutaを運営している株式会社前田組 代表の前田耕平です。
Nayutaは、福岡県糟屋郡久山町という長閑なエリアにある複合施設です。
2022年12月12日にオープンしました。
早速結論から言うと、Nayutaをつくったのは
「『幸福な場所』、別の言い方をすると『全てを祝福するような場所』
つまり
『ハイパー グッドバイブス プレイス』(HGVP)
をつくりたかった」
ということに尽きます。
「こういう世界があったらいいな」
という。その説明はこの記事後半で。
Nayutaの現在
Nayutaは2024年4月現在、下記のように4種類の飲食店、3種類の販売店、4種類のサービスを提供しています。
■薪で炊いたごはんとお野菜のおばんざい
"玄米おにぎり ひとやすみ"
■瑞々しい野菜のパスタとピッツァ
"Vegan Restaurant Sui"
■こころを込めた手づくりのお菓子とコーヒー
"cafe letter"
■フレッシュなスムージーとオリジナルドリンク
"Juice Bar Delight"
■量り売りとオーガニック食材
"marche acoustic"
■手しごとの日々のアイテム
"boutique present"
■花に想いを込めて
"flower place gift"
■深く耽溺するための図書スペース
"Book Station DIVE"
■森と湖と薪と
"Tent Sauna THE VANISH"
■集中と愉楽のレンタルスペース
"Rental Space another"
■久山の自然を大好きなわんこと
"Dog Garden be with you"
■手染めと手仕事の和装とカジュアルウェア
"Japanese Clothing Hitoshio"
そして、今夏には温浴施設
「こころとからだをからっぽに "Furo & Sauna THE VANISH"」
(「ひとときでもバッドマインドをはじめとしたあらゆるノイズを"消滅"させたい」という願いを込めて)
もオープン予定で、さらに今後宿泊施設をはじめ色々なことを始めていきたいと思っています。
Nayutaをつくった経緯
私自身は20代の頃はフリーター生活をしたり、軽く放浪したり、大きな失敗をしたり、少しプログラミングをやったりしていました(本当に出来の悪いエンジニアで、その時の会社のメンバーには本当に申し訳無く思っています)。
その時は東京で生活していたのですが、建設会社を経営していた父に声をかけてもらい2013年8月に福岡に帰ってきました(色々なことがあり父がそのようなことをしてくれるとは夢にも思っていませんでした)。
けれども帰福した翌月に父の病気(癌)が見つかり、手術も行いましたが翌年の8月に他界してしまいました。
当時の私は30歳で、建設業について完全なる素人でした。スタッフのほとんどは年長者でかつこの分野に詳しいベテランばかり。
素人同然の青二才が突然代表者になり、スタッフからしたら口には出さずとも非常にやり辛かったと思います。
それでもスタッフは会社を支え続けてくれ、本当に感謝してもしきれません。定年退職後も連絡をくれたり、差し入れをくれたり、Nayutaに遊びに来てくれるスタッフもいますが、本当にあたたかい気持ちになります。自分が逆の立場だったら早々と辞めていると思うので(こういうことから私は「コミュニティの意義」のようなものを強く意識するようになりました。帰属意識をもって尽力してくれる人がいることがいかに有難いことか)。
父の死後、会社は一応続いていきますがそれはそこまで会社を築いてくれた父と当時のスタッフの功績に他ならず、自分自身は経営者として何も出来ていませんでした。
また、学生時代の柔道の古傷の影響と、日々の不摂生で体調もマインドも良くない状態が続いていました(この経験もあって「心身の健康の重要性」を考えるようになりました)。
「自分が会社に貢献している」という感覚を得られないことは非常にもどかしく「この会社の代表は自分でなくていい、むしろ自分でない方が良い」くらいに思っていました。
だからと言って投げ出すわけにはいかず。
「自分は世の中に対して何がしたいのか、何ができるのか」ということを考えるうちに、漠然と「ポジティブな『場』をつくりたい」と考えるようになりました。
それは、海外を巡っていた時に訪れた寺社、教会、モスクといった施設で感じた「包み込まれるような感覚」つまり愛?をおぼえた時の感動が原体験としてあります。そういった施設を引き合いに出すことは畏れ多いですが、でも少しでもその感覚に似たものを感じてもらえる空間をつくりたいと思うようになりました。単純に「人が集まり、行き交う『心地良い場所』をつくりたい」くらいの感じ。
そうなった時、「施設の中心に据えるべきは温浴施設」ということは、自分の中で揺るぎない感覚として生まれていました。単純に昔から公衆浴場やサウナが好きだったのと「これほどまでにLove & Peaceな場所はそうない」という確信があったからです。文字通り"丸腰"の"裸の付き合い"なわけで(さらに"同じ釜の飯を食う"まで加わったら最高)。
そんなことを夢想していた2020年の初夏、かなりの頻度で利用していた温浴施設である"夢家"がクローズしていることを知りました。紆余曲折を経て運よく取引が成立し、思っていたよりもかなり早いタイミングで「場づくり」の機会を得ることができました。
当時は「お風呂とサウナとその他」くらいしか構想は無かったので、慌てて施設全体のコンセプトを練ることになりました。
今まで自分が見てきたなかで心から「すてきだな」と感じるお店は多くの場合、比較的小さな規模のものでした。
でも如何せんこの施設は物理的に大きい。
この規模で自分が好きだと感じてきたようなお店の雰囲気を醸し出すには…
考えた結果
「めっちゃ頑張ればいい」
ことに気付きました。
Nayutaの店舗たち
人類の幸福には「文化」が重要であり、その因子としてはとりあえずわかりやすく「衣食住」というものがある。それを丁寧にやっていこう、と。
おいしく、身体にもよく、そしてどんなバックボーンの方にも召し上がっていただける料理を提供しなければならないと思いました。なので飲食店についてはヴィーガンかつ無添加に。
アルコールも害悪の方が圧倒的に大きいと考えているので思い切って提供しないことにしました。
こういったことは海外でベジタリアンやハラル等の食事を身近に見てきたことが影響しています。当時は世捨て人のような気持ちで放浪していましたが、その時の経験がこのような形で昇華していくとは夢にも思いませんでした。
(このあたりのタイミングで趣味としてアシュタンガヨガを始めていたことも関係しています。
そして割と幼い頃から哲学、思想、宗教全般に対してなぜか興味が強く、何となく遊びで勉強?し続けていたので、素人ながらに世界の色々なトライブの方に配慮したものを提供したいと思うようになっていたことも大きいように思います。)
少し、お店の紹介を。
玄米おにぎり ひとやすみ
まずは日本食。自分のなかで日本食といえば「おにぎり」でした。
いちばん素朴であたたかい食べ物。そこに、丁寧なおばんざいも召し上がっていただけるようにすれば、多くの方に寛いでいただけるはず。
福岡県産の無農薬玄米を、毎朝"かまど"で炊いています。
文字通り"ひとやすみ"していただきたく。
Vegan Restaurant Sui
色々なバックボーンの方に訪れていただくことを考え、また自分自身がイタリアンが大好きなこともありパスタとピッツァを提供できるお店を(オープン当初はフレンチベースでしたが、2024年3月からイタリアンベースに切り替えました)。
野菜の瑞々しさを感じていただきたく「スイ」に。
cafe letter
家族や友人とカフェでまったりと寛ぐのは至福の時間。ハンドドリップオーガニックコーヒーと手作りのお菓子を中心としたラインナップを提供しています。
また、大事な人に手紙を書きたくなるような空間になって欲しく。
Juice Bar Delight
お風呂あがりには美味しくて健康的なフレッシュジュースを飲んでいただきたく、自家製ジュースバーをつくりました。乾いた喉と身体に愛情たっぷりのジュースを飲んだ時の感覚は心身の「歓喜」に他ならず。
marche acoustic
また、お風呂帰りにはお買い物も楽しんでいただきたい。Nayutaの飲食店にも負けず劣らずのおいしくて身体に良い食品を取り揃えたい。
アコースティックギターのような素朴な美しさを表現したく。こちらはラクトオボベジタリアンとなっています。
boutique present
それから、ずっと付き合いたくなるような日用品も取り扱いたいと思いました。
「大切な人へのプレゼントはあそこで探したい」と思っていただけるようなお店を目指し。
flower place gift
入り口には当然、訪れてくださる方をお出迎えするお花屋さんが当然必要だと思いました。
日常や、人生の節目に、想いを込めたギフトとして選んでいただきたく。
Book Station DIVE
本を読みながらゆっくりしたい方も大勢いらっしゃることでしょう。
ひたすら本の世界に耽「溺」していただきたく。
Rental Space another
せっかくなので、静かにお仲間と施設を利用しただきたい。
異次元とは言わぬまでも、外の空間とはちょっと違った雰囲気を味わっていただきたく。
Dog Garden be with you
ワンちゃんも一緒に遊びに来たい方も少なくないと思いました。
そんな気持ちを素直に表した空間名。
Japanese Clothing Hitoshio
衣食住の追求を標榜しているからには服についてもオリジナルでつくりたいと、オリジナルのブランドを立ち上げました。
「ひとしお」とは「一入」と書き、元々は藍染の工程で「もう一度染料に浸してより深い色を出す」ことに由来していると言われています。藍染をはじめたとした自然染を大切にしていることと、「喜びもひとしお」といった音の響きが好きでこの名前に。
というような感じでハードのコンセプトを固めていきました。
Nayutaのバイブスについて
しかし言うまでもなく、ソフトはハードよりさらに大切です。
その場所が「心地良いか否か」は「どんなものがある場所か」よりも「どんな人がいるのか」が大きく影響するから。
私の趣味の問題もありますが「礼儀正し過ぎる接客」は「冷淡な接客」と同じくらい良くないと思っています。「慇懃無礼」という言葉もあります。「素朴な気持ち良い対応」で十分だと思っていて、怒られるかも知れませんが、ある意味「接客」という感覚ですらないかも知れません。「人間としての普通の振る舞い」です。
「ここを選んで訪れてくださった方に、自然と湧いてくる感謝の気持ちをもって普通に対応する」だけで十分というか、それしか無いと思っています。
そういう「素朴でいい感じ」を、カルチャーとして醸成していく必要があると思いました。スタッフの「お客さまに対しての対応」は勿論、スタッフ同士でも。というかスタッフ同士から。人はスタッフやお客さまである前に人間なので、根本的部分でリスペクトし合うことが大切だと思いました。
こういうのは「やりなさい」と言ってどうにかなるものでなく。
「雰囲気」や「カルチャー」「バイブス」とは生き物であり、味噌が発酵していくように?コントロールできないことだと思います。「意志」を持って、じっくりと見守るしかないと思っています。
大切なのはスタッフがお客さまに対して
「うち(Nayuta)を選んでくれてありがとうございます。」
「うち(Nayuta)を支えてくれてありがとうございます。」
という気持ちをもって接することだと思います。
その大前提として、スタッフ自身が「この場所を愛していること」が必須だと思います。
逆に言うと、その気持ちさえあれば自然とお客さまにとって心地良い対応になるのだと思っています。お客様のご来館はNayutaの肯定であり、スタッフはNayutaの一部なわけなので、それはスタッフにとって自身自身を肯定していただいているということだから。
「この場所が無くなってほしくない、この場所により多くの方が訪れてもらい、より大きな喜びを感じて欲しい」
そう思ってくれるスタッフがどれだけ育ってくれるか、ということが最も大切だと思っています(そしてこの感覚が、人類の「共同体への帰属意識」ということの本質だと考えているところがあります。人は「『大好きなこの場所を守る』という気持ちがあった方が、"朗らかに振る舞う"ことが可能になりやすい」ということ。結局「所属している共同体へ帰属意識を持っている人がどれだけいるか」ということは、社会全体の幸福度にかなり大きく影響してくると思っています)。
そしてこれが一番大切ですが、Nayutaは「お客様」も含めて完成します。
Nayutaという場
働いているスタッフ
来てくださったお客様
失礼かも知れませんが、この複合体だと思っています。
だから、お客様もグッドバイブスの主人公・当事者に他なりませんし、その瞬間瞬間が総体として「ひとつの作品」です。1日たりとも、一瞬たりとも
「同じ場、スタッフ、お客様」
の瞬間は無いので。みんなで良いオーケストラを奏でているイメージでいます。一期一会?
2020年以降、自分たちなりに全力でプロジェクトを進めていきましたが、工期や予算の関係で温浴施設と宿泊施設のオープンは到底不可能なことが分かってきました。これが「はじめから分かってなかった」ことは、ひとえに私の経営者としての能力の無さから来ています。
とは言え、どうにか前に進まなくてはならない。やむを得ず、飲食店と販売店のみでいったん先行することにし、2022年12月に(ほぼ)現在の体制でオープンしました。
その後、運営は大変でしたしスタッフにも大変な思いをさせ、そして関係者の皆様にも甚大なご迷惑をおかけしてしまっていますが、おかげさまでもう少しで温浴施設(THE VANISH)をオープンできそうなところまで来ています。日々お客さま、スタッフ、お取引先に支えていただき、クラウドファンディング(CAMPFIRE)でも多くの方にご支援いただき本当に感謝しています。
Nayutaが守り深めたいこと
これからNayutaの規模感がどうなっていったとしても、最も大切なのは
「グッドバイブス プレイス」
つまり
「愛と感謝とリスペクトで満たされた場」
であり続けるということ。
そして何を隠そう、そういったことが一番出来ていないのは、経営者である私自身であることも深く自覚しています。でも、
「自分に欠落しているからこそ、それを渇望している」
ということも事実であり、一部の聖人を除き、人生とはつまり
「『どこまでいっても愚かな自己』を『修行』させ、また『治療』し続ける果てしない『業』そのもの」
なのだと思っているところがあります。人生において全ての思考や行為が「試されている」のであり、また同時に贖罪でもある(べき)ような気がしています。
そんな極めてバッドな自己の反動として、なるべく「明るく清らかで軽やかなもの」を生み出したいと思っているような感じがします。
よくわからない強迫観念めいたものに囚われながら
「自分たちがつくったものを使って、自分自身を洗う」
という謎の行為に明け暮れています。
このようにNayutaの誕生の経緯はかなりヘンテコで屈折しています。
しかし訪れてくださる方に結果として喜んでいただけるのだとすれば、それはそれで肯定しても良いものなのかも知れないので、みんなで頑張っていきたいと思います。
お風呂をお待ちいただいている皆様、大変申し訳ございません。
今しばらくお待ちいただけますと幸いです。
さいごに
そもそも「Nayutaの由来は?」という質問に対してはヒントとして
「ぼったくりやないか〜」
ということになります。
前田耕平